「この店は、まだ最初の一歩」
Uターン、いちご栽培、店舗開業。その先の挑戦を見据える「New Berries」福本脩斗さん

高知県西部で、いちごスイーツの専門店を営む福本さん。
現在は店舗だけでなくキッチンカーでの販売にも取り組み、いちごの栽培もはじめている。
しかし、福本さんが目指しているのは店を1店舗経営することだけではない。
その先に描いているのは、自分たちでいちごを育て、加工・販売し、さらにカフェや農産物、家族で滞在できる場所なども組み合わせた拠点づくりだ。
大学進学を機に高知県四万十市を離れ、東京でシステムエンジニアとして約10年間勤務。
農業の経験も農家とのつながりもないなか高知へUターンし、平日は会社員を続けながら、毎週末いちご栽培を学ぶため宿毛市の農業公社へ通った。
そこから店を開き、キッチンカーを始め、自社でいちご栽培を始めた。
今ある店は、福本さんが以前から描いてきた構想を実現するための第一歩である。
高知へ戻って何かしたい。その思いから始まった福本さんの挑戦は、スタートしたばかりだ。
東京で働きながら、「いつか高知で何かしたい」と考えていた
高知県出身の福本さんは、大学進学を機に県外へ出て、その後、東京でシステムエンジニアとして働いた。
「会社員生活がつまらなかったわけではないです。東京も刺激があって楽しかったですね。」
一方で、高知へ帰省するたびに、「いつか地元で何かできないか」という思いがあった。
「会社員の時から、地元で何かしたいという思いはずっとありました。」
システムエンジニアという仕事をそのまま高知で活かそうとすると、当時は選択肢が多くなかった。そこで考えたのが、一次産業を軸に新しい事業をつくることだった。
「地域に貢献したいというのもあって、一次産業を軸に何か仕事ができたらと思っていました。」
生産だけではなく、加工・販売までやる
農業を始めるにあたり、福本さんが最初から考えていたのは、生産だけで終わらせないことだった。
作物をつくり、加工し、自分たちで販売する。そのなかで選んだ作物が子どもの頃からの好物のいちごだった。
「生産だけだと天井が見えるというか。それよりも、加工して販売までやりたいと思っていました。」
いちごスイーツ専門店という方向性も、農業を始める前から考えていた。東京にいる頃からさまざまないちごの専門店や商品を見て、自分なりに事業のイメージをつくっていた。
ただし、いちごを販売するのであれば、まずは生産について知らなければならない。
そこでUターンした後、栽培を教えてくれる農家を探した。

平日はシステムエンジニア、週末は農業公社へ
高知にUターンした時点で会社をすぐに辞めたわけではない。
勤務していた会社の仕事をリモートで高知でも続けながら、週末はいちご農家へ通った。
「平日はリモートで仕事をして、週末は朝から晩まで、毎週きっちり農家さんのところへ行きました。」
従来の研修制度に入ったのではなく、「週1日でもいいので勉強させてほしい」と自らお願いし、現場へ入った。
「そういう働き方でもいいですか?とお願いしました。とりあえず1シーズンはちゃんとやろうと思っていたんです。」
生活の基盤は会社員の収入で確保しながら、新しく始めたい仕事を現場で学ぶ。
いきなり収入源をなくして農業一本にするのではなく、リモートワークを生かして準備期間をつくった。
家族でUターンし、少しずつ事業へ比重を移す
福本さんは、妻と子どもと一緒に高知へUターンした。
妻は県外出身だが、妻には結婚前から「いつか高知へ戻りたい」という話はしていたという。
Uターン後、福本さんは自宅でリモート勤務を続けながら農業を学んだ。妻は乳児の育児をしながら、家族で子育てと生活を支え合った。
そして事業が本格化した現在は、夫婦で一緒に仕事をするようになっている。
会社員の仕事、農家での研修、子育て、店舗準備。すべてを一度に切り替えるのではなく、家族で協力しながら生活を維持しつつ、少しずつ事業側へ比重を移していった。
まず店をつくって、「売る場所」を先につくる
地域の農家さんから、「まず最初の3年くらいは生産に集中した方がいい」と言われたこともあった。
それでも福本さんは、生産だけを何年も続けてから販売を考えるのではなく、店舗を先につくることを選んだ。
「早すぎるとも言われました。でもそんなに待てないと思って。」
まず店舗をつくり、いちごを使った商品を販売する。
最初は仕入れたいちごも使いながら、お客さんをつくり、商品開発や店舗運営を経験する。その後、自分たちで栽培したいちごを商品へとつなげていく。
「最初はお客さんをつくって、自分で生産できるようになったら、そのいちごを取り入れていく計画でした。」
一般的には、まず生産技術を身につけ、その後に販売へ進むケースが多い。
一方で福本さんは、まず売る場所とお客さんをつくり、その後に自分たちのいちごをつなげていく形を選んだ。
生産と販売を切り離さず、同時に育てていこうという考えだった。

KSPやよろず支援拠点、商工会など、必要な支援を使う
起業準備では、高知県の起業支援も活用した。
こうち起業・創業支援プラットフォーム(以下、KSP)の講座の受講に加え、事業の方向性を考える段階では、よろず支援拠点などにも相談した。
「最初の頃はまだ自分の中でもアイデアが固まりきっていなかったので、とにかく相談していました。」
その後、事業計画や補助金申請を進める段階では商工会にも相談。
県と市の起業支援補助金の情報を得て、自ら事業計画を作成し、申請へと進んだ。
福本さんの場合、一つの支援機関だけで準備を進めたわけではない。
事業の方向性を整理したい時はKSPやよろず支援拠点の相談窓口。具体的な計画や補助金申請の段階では商工会へ相談する。必要に応じて講座も受講しながら、一つずつ準備を進めていった。
事業の構想が固まる前から相談を重ね、必要な支援を取り入れながら形にしていったことも、福本さんの起業準備の特徴だった。

あえて「集客が難しい」と言われた場所で店を開いた
店舗を構えた場所は、福本さんにとって馴染みのあるエリアだった。
一方で、周囲からは「そこで集客するのは難しいのではないか」と言われることもあったという。
「反対というか、『集客は難しいんじゃないか』とは結構言われました。」
それでも福本さんは、その場所で事業を成立させることに意味があると考えた。
もしここでお客さんに来てもらえる仕組みをつくることができれば、今後の事業展開にもつながる。そんな思いがあったという。
実際に店舗をオープンすると、想定以上の反響があった。
「事業計画以上に人手が必要になって、途中からスタッフを増員して体制を強化しました。」
現在は店舗営業だけでなく、キッチンカーで各地へ出店に行っている。
まだ完成した事業ではない。店舗、イベント、キッチンカーを組み合わせながら、売上をつくっている段階だ。

システムエンジニアの経験も、今の事業につながっている
福本さんの経歴を見ると、「システムエンジニアから農業」という大きな転身に見える。
しかし、農業経験がなかったからといって、それまでのキャリアを捨てたわけではない。
前職で培ったシステム開発の経験は、現在の事業にも生かされている。
店舗では、レジシステムとリアルタイムで連動するタブレット型の注文管理システムに加え、売上データや商品の販売数、資材・材料の在庫状況、レシピ、原価計算まで一元的に管理できる経営管理システムを構築。
日々の店舗運営だけでなく、商品ごとの収益性の把握や、データに基づく経営判断にも活用している。
いちご栽培では、ハウス内の気温や湿度などを測定・記録する環境測定システムを自ら構築。
さらに、研修で学んだ栽培ノウハウを生成AIに学習させ、環境データや気象条件に応じた施肥や農薬散布のスケジュール最適化にも活用している。
農業経験の不足を、これまで培ってきたITの知識とデータ活用によって補い、蓄積したデータに基づく栽培管理に取り組んでいる。
福本さんが得意なのは、「こういうことをしたい」という構想を整理し、どういう仕組みにすれば実現できるのかを考えることだ。
システムエンジニアとして培った「仕組みをつくる力」と、新しく身につけた「いちご栽培、店舗運営の力」を組み合わせている。
デジタルの活用もその一つで、今後は地域事業者のデジタル化にも関わりたいという構想を持つ。
県外での経験も、Uターン後の事業づくりに生かされている。
この店から、次の構想へ
福本さんが目指しているのは、店を1店舗経営することだけではない。すでにいちご栽培もスタートしている。
さらにその先には、農園を中心に、カフェや農産物、家族が滞在できる場所などを組み合わせた拠点づくりを構想している。
「第一弾というか、準備期間みたいなものです。」
いきなり大きな施設をつくるのではなく、まず店をつくる。
そこで商品を売り、顧客をつくり、実績を積む。
次に自社栽培を始め、その先に農業、飲食、観光を組み合わせた事業をつくる。
現在の店はゴールではなく、その構想を実現するための一つ目の事業である。

農業経験ゼロから始まった挑戦は、次のステージへ
福本さんの起業までの道のりを振り返ると、「必要なことを、できるところから始めた」というところに特徴がある。
地元で何かしたいと思い、一次産業に着目する。
生活があるから会社員を続けながら農業の現場で学ぶ。
販売まで手掛けたいから店舗をつくる。
分からないことがあれば、KSPやよろず支援拠点、商工会などにも相談する。
そして現在は、自らいちごを育てながら、次の事業に向けた準備を進めている。
起業というと、最初から完成された事業計画を描き、一気に形にしてくイメージを持つかもしれない。
しかし福本さんの場合は、会社員から農業へ、農業から店舗へ、店舗から自社生産へと、一つずつ実績を積み重ねながら前に進んできた。
その先に見据えているのは、生産、加工、販売、観光をつないだ新しい場所づくりだ。
現在のいちごスイーツ専門店は、その入口にすぎない。
高知へ戻り、「いつか地元で何かしたい」と考えたところから始まった福本さんの挑戦は、動き始めたばかりだ。

「New Berries」
・住所:高知県四万十市中村天神橋59−10
・Instagram:https://www.instagram.com/newberries.jp/
文責/株式会社Time Link Creation 遠藤 洋輔